2020年11月23日月曜日

私が書いた自治会会報誌の作文

 先日、自治会の会報誌「さわやか」に原稿を書きました。

書いた当時は、テレビで「半沢直樹」がはじまったころだったので、それを意識した文章になっています。

ドラマの中の半沢は私と同じ慶應義塾大学出身ですし、主人公の堺正人さんは私と同い年でしたので、親近感もわきながらドラマを見ていました。

私が文章を書くことなんてそうそうないので、こちらのブログにも載せてみようと思います。

ちなみに医療とは全く関係ありません。


「面を打つ」

7年ぶりに放送された「半沢直樹」第2弾をテレビでご覧になった方も多いのではないでしょうか。大手銀行グループの社員が内部で行われる不正に毅然と戦い、「やられたらやり返す、倍返しだ」を彼の流儀・モットーに強大な悪と戦う物語です。正義感から上司の理不尽な振る舞いに立ち向かう姿に多くの共感を得ています。毅然とした半沢は、学生時代以来剣道をこよなく愛しています。正義感と道の考え、妙にマッチした高尚な趣味を持っています。テレビでも要所要所で剣道の稽古の様子が描かれています。

「面を打つ」、文字通り剣道では竹刀で面を打ちます。しかし、単に物理的に面を打っているだけではありません。気をこめて全身全霊から勇気をもって目の前の敵に体全体で立ち向かい竹刀に気をのせて打つのです。不正に対して毅然と戦う半沢の内面を表現するにはこれ以上のものはありません。ドラマの中で上司や金融庁との心理的つばぜり合いを繰り広げたあとに剣道のまさに迫真のつばぜり合いの場面が出てくるところは心憎い演出で大変見応えがあります。

しかし、ここでお話しするのは剣道ではなくもう一つの「面を打つ」です。面は「めん」ではなく「おもて」と読ませて「おもてを打つ」ことについてのお話です。

「おもて(面)」とは能で使う能面のことです。能面は木を彫って作られますが、「おもてをほる」とは言いません。面を作る人は面打師(めんうちし)と呼ばれます。私は中学のとき、夏休みの宿題で面打師に指導を仰ぎ能面を作りました。その際に「打つ」という意味をお聞きしました。

能面は木の塊に対してノミをあてがい木槌で思い切りガツンガツンと彫り上げていきます。その姿は「彫る」ではなくまさに「打つ」という言葉がしっくりきます。しかし、ノミを打ち付けている姿からだけではなく、その背景にある「打つ」部分が重要なのだと面打師に聞きました。

「能面の顔」という言葉がありますが、皆さんはこの言葉から表情がない・乏しい様を思い浮かべるのではないでしょうか。面打師は反対だと言います。能面はとても表情豊かである、例えば舞台の上で演者につけられて舞っている面は能の物語の中の喜怒哀楽を見事に表現します。反面、壁に長年飾られている面はうつうつとした心が見え隠れする表情になると言われていました。気がのらずやっつけ仕事で面を打っているときには、面から受ける嫌味・恐怖などを感じ、気を引き締めて面に向かうことを思い出させてくれるというのです。面の裏には梵字が施されています。これは単なるまじない、魔除けではなく、面の持つ力に引き込まれ、圧倒されないようにしているそうです。それほど、面には力があり、場面場面で異なる気を表現している、その能面の裏に見られる多様な表情を示す有様を「能面の顔」と称賛していたことが現在では忘れられ、今では反対の意味で使われるようになったと面打師の方は話されていましたが、真相は定かではありません。

 おもてから受ける気を受け止めて、面打師は全身全霊をもって自らの気を打ち付ける、物理的にノミを打ち込むだけでなく、心身ともに木の塊に気という息吹を打ち込むのです。面を製作する背景にこれだけの思いがはせられている能は、もともと厳かなものと感じる方が多いでしょうが、一般人が想像もできないほどの重厚な思いが能の舞台全体に込められているのです。

 剣道に話を戻しましょう。剣道でも、面を打つのに全身全霊をこめて相手を威圧していきます。私もかつて剣道をかじったことがありますが、竹刀を構えた時点で相手から受ける気合から勝負が決まる場面を多く経験しました。それほど、気は重要なものなのです。

 剣道にしろ、能面にしろ、読み方は「めん」と「おもて」で異なりますが、自らのすべてをかけて立ち向かう姿は、現代日本人が見習うべき先人の文化だと思います。ドラマの半沢直樹がここまで人気なのは、自らのすべて、全身全霊をかけて、どのような敵に対しても誠実で、自己犠牲を顧みず、右にならえの現代社会とは異質な主人公が描かれているところにあるように思います。

 私は、子どもを相手にする医者をしています。半沢まではいかないものの、少しでも気持ちをこめて子どもたちに真剣に向き合いたいと改めて感じています。

これからも楽しみにドラマを見ていきたいと思います。おすすめの番組ですよ。



長文、お粗末様でした。